聴力低下と認知機能低下について②
前回の記事(聴力低下と認知機能低下について - PTいっつんのEBMブログ)
の続編です。
こちらはイギリスで行われている大規模な高齢者のコホート研究(ELSA)から抽出したデータを使用した研究です。
P:イギリスの50歳以上の男女でELSAの参加者(n:self reported = 7,865 objective hearing measuers = 6,902)
I:認知機能検査、主観的な聴覚、客観的な評価
C:非難聴者
O: 認知症の発生、聴力の推移
【介入方法】
介入方法Wave2(2004/5)からWave7(2014/5)でself reportを収集(認知症発生数は累積人数を算出)、Wave7でobjective hearing measureを収集。
統計解析は認知症罹患者の割合は各群でのOdds ratioを計算し、認知症発生についてはWave7でself report群に対して、累積的な人数を以てCoxハザード回避モデルで解析。
【結果】
(normal hearing対。odds,95%CI)
【moderate】objective 1.6(1.0-2.8) self 1.6 (1.1-2.4)
【poor】objective 4.4 (1.9-9.9) self 2.6(1.7-3.9)
【考察】
認知機能の定義上IQCODEでスコアが3.5以上を認知症と診断されているため、偽陰性の患者がいたかもしれない。(診断された倍はもしかしたら認知症患者がいた可能性がある、とのこと。)
主観評価は補聴器使用下で行っているため、補聴器の使用下での聴覚は今回の研究において交絡因子となり得るとのこと。
病理学的に認知機能低下が先か聴力低下が先かは測定不可能な残差交絡聴覚機能低下により、認知機能が低下するメカニズムの可能性として
①会話進行中に記憶をとどめておくこと、エンコーディング(想起と二重課題)に負荷がかかることで認知機能へ影響する。
②感覚入力の低下や処理が難しくなることは脳全般、特に右側頭葉の白質の変性や機能低下をもたらす可能性がある。
③難聴により社会との関わりが減り、認知症がすすんでしまう可能性がある。
【私見】
70代以降の認知症の割合が増えている。
考察のところでもあったように、難聴に伴った活動量や社会との関わりが低下することがより認知機能へ影響を及ぼすとすれば、難聴者の活動量について研究をすすめていきたいと考えております。
補聴器使用者がself reportedでWave2では561(6.5%)、Wave7でも1,041(13.6%)。10年間で480人しか増えていない。他者と交流が難聴により阻害されているとすれば、補聴器の使用を検討していくことはいち解決策になり得るのではないでしょうか。ただし、記銘力の低下や会話の二重課題(話ながら記憶にとどめておくなど)の困難さが見受けられる場合、脳トレとして机上課題に取り組み、訓練していくことも必要ではないかと考えられます。補聴器以外にも、デイサービス等、介護サービスを利用し、社会交流を図ることも良いかもしれません。
理学療法士として、社会交流を図るためのコミュニケーションの評価や指導、社会参加が行える程度の活動性を向上若しくは維持を行う目的での運動療法の実施についても引き続き研鑽を深めていきたいと考えています。