PTいっつんのEBMブログ

理学療法士兼ひよっこEBMerがお届けする文献抄読

聴力低下と認知機能低下について②

前回の記事(聴力低下と認知機能低下について - PTいっつんのEBMブログ)

の続編です。

 

www.ncbi.nlm.nih.gov

こちらはイギリスで行われている大規模な高齢者のコホート研究(ELSA)から抽出したデータを使用した研究です。

 

P:イギリスの50歳以上の男女でELSAの参加者(n:self reported = 7,865 objective hearing measuers = 6,902)
I:認知機能検査、主観的な聴覚、客観的な評価
C:非難聴者
O: 認知症の発生、聴力の推移

 

【介入方法】
介入方法Wave2(2004/5)からWave7(2014/5)でself reportを収集(認知症発生数は累積人数を算出)、Wave7でobjective hearing measureを収集。

統計解析は認知症罹患者の割合は各群でのOdds ratioを計算し、認知症発生についてはWave7でself report群に対して、累積的な人数を以てCoxハザード回避モデルで解析。

 

 

【結果】

(normal hearing対。odds,95%CI)
【moderate】objective 1.6(1.0-2.8) self 1.6 (1.1-2.4)
【poor】objective 4.4 (1.9-9.9) self 2.6(1.7-3.9)

 

【考察】

認知機能の定義上IQCODEでスコアが3.5以上を認知症と診断されているため、偽陰性の患者がいたかもしれない。(診断された倍はもしかしたら認知症患者がいた可能性がある、とのこと。)

主観評価は補聴器使用下で行っているため、補聴器の使用下での聴覚は今回の研究において交絡因子となり得るとのこと。

病理学的に認知機能低下が先か聴力低下が先かは測定不可能な残差交絡聴覚機能低下により、認知機能が低下するメカニズムの可能性として

①会話進行中に記憶をとどめておくこと、エンコーディング(想起と二重課題)に負荷がかかることで認知機能へ影響する。

②感覚入力の低下や処理が難しくなることは脳全般、特に右側頭葉の白質の変性や機能低下をもたらす可能性がある。

③難聴により社会との関わりが減り、認知症がすすんでしまう可能性がある。

 

私見

70代以降の認知症の割合が増えている。

考察のところでもあったように、難聴に伴った活動量や社会との関わりが低下することがより認知機能へ影響を及ぼすとすれば、難聴者の活動量について研究をすすめていきたいと考えております。

 

補聴器使用者がself reportedでWave2では561(6.5%)、Wave7でも1,041(13.6%)。10年間で480人しか増えていない。他者と交流が難聴により阻害されているとすれば、補聴器の使用を検討していくことはいち解決策になり得るのではないでしょうか。ただし、記銘力の低下や会話の二重課題(話ながら記憶にとどめておくなど)の困難さが見受けられる場合、脳トレとして机上課題に取り組み、訓練していくことも必要ではないかと考えられます。補聴器以外にも、デイサービス等、介護サービスを利用し、社会交流を図ることも良いかもしれません。

 

理学療法士として、社会交流を図るためのコミュニケーションの評価や指導、社会参加が行える程度の活動性を向上若しくは維持を行う目的での運動療法の実施についても引き続き研鑽を深めていきたいと考えています。

 

 

聴力低下と認知機能低下について

ご無沙汰しております。

ここ最近は理学療法士と耳鼻科との関連に着目し、日々臨床業務を行っております。

中でもめまい平衡系とは異なることとして、今回は「聴力と認知機能」をテーマに文献を読んでみました。

www.ncbi.nlm.nih.gov

 

P:BLSAに参加している、認知機能の障害や認知症のない55歳以上の方(n=347)
I :聴力と認知機能
C:コホート研究のためなし(Intervensionに起因した、年齢、聴覚、認知機能別の比較)
O:聴力が低下すると認知機能が低下する。

【方法】
認知機能検査は以下の検査を実施。

・Mini-Mental State Examination:MMSE(n=340)
・Free and Cued Selective Reminding Test:FCSRT(n=343)
・Trail Making Test-A:TMT-A(n=338)
・Trail Making Test-B:TMT-B(n=338)
・Strooping Test(n=314)
・American version of the National Adult Reading Test:AMNART(n=235)

聴覚検査は聴こえやすい方の耳で実施。0.5,1,2,4kHzでの聴覚閾値の平均で聴覚を定義。

【統計】
回帰モデルを使用。交絡因子を調整しながら解析している。

【結果】
聴覚の低下はMMSEの点数や記憶(Free Recall)や遂行機能(Stroop Mixed,TMT-B)の低下に顕著な関連がある。
その結果は潜在的な交絡因子、年齢の非線形効果、重度の難聴のある個人の除外に関する調査に堅牢であった。
25dB以上の難聴に関連した認知機能の低下は6.8歳の年齢差に関連する低下と同じであった。

私見
結果の解釈として、
①Table2を見ると年齢に関わらず、FCRSTにおけるFree Callの結果はStroopingと比較して、有意性は低いが関連性が高いと示唆されている。(なる確率は不明も、難聴になると認知機能の低下に関連している。)
②Table2では10dBごとに分けられたグループでFCSRTのみの比較(他の共変量を除いた場合)は有意な低下が示唆されている。
③Table3では25dB以上の聴力低下は到達する年齢にかかわらず、Stroop MixedやTMT-Aが有意に低下している。

なぜ線形探索なのか、難聴の閾値の値だけでなく、変化量も見たほうが…、元々聴力が低い方はどうなのかなど、疑問がありますが、キリが無いのでこの話はやめます。

 

しかしながら、この研究で出ている結果は、実臨床で起こりえるものとして候補に上げておく、という距離感を持っても良いのではないかと考えています。

①、②の結果から、FCSRTをピックアップしてみた場合にFree Callは「新しいことを覚える、慣れる」を数値化したものと考えるならば、臨床上、高齢者で聴力と認知機能が低下することは予後予測として、

・「新しい環境への適応に難渋する可能性」

・「現在の生活リズムが崩れる可能性、活動性の低下」

から、社会参加の阻害に関与するかもしれません。

その対策として、

・「現在の生活ルーティンの維持」

聴覚機能自体には

・「書字など、聴覚の代償」

・「補聴器の使用」

といった生活の時間の流れ、コミュニケーションの手段の獲得においても介入の余地があると考えられます。

 

以上です。

気になる箇所等ありましたら適宜修正して行きたいと思います。

引き続きご意見等、ご指導ご鞭撻の程よろしくお願いします。

 

高齢者の食欲不振について

訪問して下さりありがとうございます。

 嚥下に関連して高齢者の食欲不振について書いていきたいと思います。

今回はさらっと。

「Mechanisms of the anorexia of aging—a review」

URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5005824/

PMCID: PMC5005824

レビュー文献(125件)

 【方法】

MedlineとPubmedのデータベースからanorexia aging/ageing(加齢による食欲不振)をキーワドに検索。65歳以上の、病理学、疫学、死亡率、加齢による食欲不振の治療とその評価について抽出。anorexia nervosa(神経性食欲不振)は除外。

 

【感想】

加齢に伴った認知機能や消化器系の変性は想像つきますが、教養や生活状況によっても食欲は変化してくるようです。当たり前ですが、ご本人や周囲の方がの生活状況に合わせて下支えしつつ、リスクや注意点の指導が安心感のいち要因と考えられます。

8/26の居酒屋抄読会 in 京都のお知らせ

訪問して下さり、ありがとうございます。

 

8/26に、AHEADMAPでご活躍されている、薬剤師のずらとも先生(https://twitter.com/zuratomo4)が主催されている、居酒屋抄読会で薬剤師と理学療法士のコラボ企画を行っていく運びとなりました!ツイキャス配信も行いますので、医療関係者に限らず、奮ってご参加ください!

 

【ご案内】

場所:京都(四条河原町付近の居酒屋)

時間:21:00〜

メンバー:ずらとも先生、PTいっつん (出来ればあと京都でお二人参加して下さる方がいらっしゃると嬉しいです)

詳細はこちらをご参照ください。

twipla.jp

 

今回のコラボですが、「誰でも」「分かりやすい」「各人の意見を尊重」をモットーに進めて参りたいと思います。

色んな方からご意見頂けると幸いです!ぜひとも宜しくお願いします!

 

【お題】

患者プロフィール:Aさん 75歳男性、要介護1、転倒歴なし。ADLは屋内外ともに自立。趣味はカラオケと晩酌。外出はその他週3回程度。

奥様(73歳、要支援1)と同居。家事や家のことは殆ど奥様が1人で行っている。

住宅は2階建ての一戸建て。手摺などは特に設置していない。

 

あなたはある日、面識のあるA様宅に遊びに行くこととなりました。その際に同居している奥様からこんなお話を伺うこととなりました。

 

奥様「ねえ、実は最近、主人が最近が昼間も眠いみたいで歩く時にフラフラすることがあるよのよね…前はこんなこと無かったんだけど…」

 

あなた「心配ですね…夜はちゃんと眠れていらっしゃいますか?」

 

Aさん「つい2週間くらい前から寝つきが悪くて、病院にかかってから、マイスリーっていう薬を飲むようになったんだけどね、なんか昼間も眠いんだよね…。しかも、ちょっと足下もふらふらして、絨毯の段差にひっかかって転びそうになったんだ…。歳だし、体が弱くなったのかな…」

 

奥様「ねえ、この人(ご主人)がこの薬を飲んでても大丈夫なのかしら?ほら、最近は転んで大腿骨っていうの、脚の骨を折る人がいるって言うじゃない、入院とかしたら大変だし、なるべく元気に過ごして欲しいのよね…。転ばないようにするにはどうしたらいいのかしら…?」

 

と、そこであなたは持っていたタブレットを使って文献を調べ始め、まずは解決の糸口を探してみることとした…

 

使用した文献:

「Use of non-benzodiazepine sedative hypnotics and risk of falls in older men」

URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4289612/

PMID:25587493

 

【お題の論旨】

睡眠障害に対する薬以外のケアとは(もしくは他に聞いた方がいい情報などがあるか)

・フラツキに対してどういった対策を立てていくか

・転ばないよう、ご本人、ご家族ともに普段の生活で注意するべき点は何か

(など。これ以外にも色んな議論が展開が出来るといいなと思っております。)

 

皆様のご参加をお待ちしております!

 

非ベンゾジアゼピン系の服用は転倒リスクを増やすか?

今回のお題は

 

「非ベンゾジアゼピン系(z-drug)の服用は転倒リスクを増やすか?」

訪問して下さりありがとうございます。 

 

高齢者の中には眠剤を服用している方で、特に自分が老健に勤めていた際に日中のフラツキや傾眠から、立位や歩行バランスを崩して転倒するケースを経験したことがありました。今回はその転倒の予測のいち判断として、文献を読んでいきたいと思います。

 

「Use of non-benzodiazepine sedative hypnotics and risk of falls in older men」

URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4289612/

PMID:25587493

前向きコホート研究

 

PECO

P:71歳以上の地域高齢男性(4450人)

E:z-drugを使用すると(94人)

C:ベンゾジアゼピンを使用した場合(177人)or睡眠剤を使用しない場合

O:転倒率は増加するのか

 

※1次アウトカムは明確か→明確

 

 

【方法】

 項目:転倒についてのアンケート(4ヶ月ごとにアンケートを送付、何回転倒したのかを1,2,3,4回もしくは5回以上で回答)

その他15項目(IADLの実行の可否、歩行速度、MMSE、GDSなど)を計測。

 

 

【結果】(ResultとConclusuionをまとめて)

 

z-drugのベースライン特性(年齢調整されたモデル) ()内は95%信頼区間

・転倒(RR1.44)、再転倒(RR1.51)

・GDSはz-drugと転倒リスクとの相関(RR1.30)あり

 

z-drug vs ベンゾジアゼピン

・多変量モデル(年齢、GDSスコア、BMIなど12種類)では、ベンゾジアゼピンは転倒、再転倒リスクと中等度の上昇と関連(転倒:RR1.37 再転倒:RR1.44)

※z-drugには年齢調整モデルにおける転倒歴については有意な相互作用があった(P=0.01)

・再転倒については有意でなかった(P=0.24)→潜在的な交絡因子によって有意差が弱められた影響あり

 

z-drug vs 睡眠剤非使用者

・年齢調整モデルではz-drug使用群は(転倒:RR1.40、再転倒:1.35)とリスク増加と関連

ベンゾジアゼピン使用者と転倒の経過との間に相互作用の根拠なし(非転倒者:P=0.41 転倒者P=0.70)

 

【まとめ】

ベンゾジアゼピン使用者は日常生活の障害の増大、身体機能の低下、うつ症状のレベル上昇に関連している

・65歳以上の患者のRCT、ゾルピデム使用者で有意に大腿骨頸部骨折が増加(REFERENCES 9参照)

・65歳以上の後向きコホート研究では、ゾルピデム処方後90日で非椎体骨折、転倒のリスクが高い(REFERENCES 10参照)

・鎮静催眠剤の追加のリスクは既に転倒している人は無視できるレベルだが、前に転倒しなかった人にとっては転倒するリスクが増加する場合がある。

 

【感想】

口腔ケアを集中的に行うことは肺炎予防に有効か?

訪問して下さりありがとうございます。

 

今回は高齢者の誤嚥に関連し、口腔ケアについての文献をみていきたいと思います。

「Oral Care Reduces pneumonia in Older Patients in Nersing Homes」

URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/11943036

PMID: 11943036

ランダム化比較試験(単盲検法)

 

PECO

P:470人の本邦施設入居者(11施設)

E:週に1度の歯科医や歯科衛生士の介入があった場合

C:歯科医や歯科衛生士の介入がない場合

O:肺炎発症率

 

※1次アウトカムは適切か→適切。

ITT解析はされているか→されていない。(ADL、認知機能、年齢の群間の割付は均等と考えられる)

 

【方法】

1996年から2年にわたり、介入。介入、非介入は各施設の看護師がランダムに選出。介入群は毎食後に看護師や介護士が介入して5分ほどの歯磨きの介入(効果が得られない場合はポピドンヨード1%希釈でうがいを実施)、週に1回の歯科医や歯科衛生士が介入、プラークや歯石の管理を実施。非実施群は1日に1回程度か不定期に歯磨きを実施(介助なく歯磨き可能)。また、ADL評価はBarthel Indexを使用、認知機能はMMSEで評価を実施。

【結果】

366人介入

脱落率:12.5%(介入群:14人、非介入群:30人)

熱発: (RR = 2.45, 95% CI 1.77–3.40, P<0.1)

肺炎発症率:(RR = 2.45, 95% CI 1.77–3.60, P<0.5)

死亡率: (RR = 2.40, 95% CI 1.54–3.74, P<0.1)

 

【感想】

単盲検法ということであり、バイアスはかかる可能性は否定できないと推測されます。また、死亡率もみていくのであれば、RCTで比較するのに関しては倫理的にどうなのかなと思うところもあるため、後ろ向きのコホート研究でもよかったのではないかなと少し問題視してます。結果的には集中的な口腔ケアを行っている方が肺炎予防に効果的であるため、歯石や歯垢除去がいかに肺炎予防の効果が高いかが言えるかと思います。しかしながら、ポピドンヨードの使用に関して、口腔粘膜へのダメージも示唆されており、それについては改めて調べていきたいところではあります。

以前にJJCLIPの配信でもあった、認知症患者の眠剤服用で肺炎になりやすいのか

pharmasahiro.hatenablog.com

という会がありましたが、食事の際の誤嚥、睡眠時の不顕性誤嚥のリスクを考えますと、口腔内のウィルスが気道に入り込むリスクを減らすよう、歯科依頼の提案や歯磨きについても確認をしてみてもいいのではないでしょうか。また、リハビリ的な側面ですと、ブラッシングでの上肢操作と口唇や顎の動きが協調的か評価したり、ブラッシングの際の立位や座位姿勢、ベッド上生活をされている方に対しての開口や頭頸部の可動域についてもみていく必要があります。

今一度、口腔ケアについても各人で見直しを行ってみてはいかがでしょうか。

ベンゾジアゼピンと非ベンゾジアゼピンの服用は大腿骨頸部骨折のリスクを増やすか?

訪問して下さりありがとうございます。

 

前々回に掲載したお題に関連して、今回は高齢者で増加する大腿骨頸部骨折について、ブログを書いていこうと思います。

aitataitachan.hatenablog.com

  

「Benzodiazepines, Z-drugs and the risk of hip fracture: A systematic review and meta-analysis」

URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC5407557/

PMID: 28448593

ステマティックレビュー

メタ分析

 

PECO

P:50歳以上(平均65歳以上)

E:ベンゾジアゼピン系(BNZ)もしくは非ベンゾジアゼピン系(z-drug)の服用

C:眠剤を服用していない

O:大腿骨頸部骨折

 

※1次アウトカムは適切か→適切。

 

 

【方法】

・Medlineを用いて、PRISMAチェックリスト・フローチャートの基準に則り、RCT、ケースコントロール研究、もしくは骨粗鬆症性骨折関連の骨折で70%以上が大腿骨頸部骨折の文献を抽出し、中でもBNZとz-drugと非服用者の比較を行っているものを選定。

・ニューオタワスケールでGoodの文献を抽出。

・使用期間ごとに、短期(14日以内)、中期(14-30日以内)、長期(1ヶ月以上)に分類。

 

【結果】

BNZ vs 非服用

全体: (RR = 1.52, 95% CI 1.37–1.68, P<0.001, I2 = 67%)

短期:(RR = 2.40, 95% CI 1.88–3.05, P<0.001, I2 = 27%)

中期: (RR = 1.53, 95% CI 1.22–1.92, P<0.001, I2 = 0%)

長期:(RR = 1.52, 95% CI 1.35–1.71, P<0.001, I2 = 59%)

全体(不眠患者のみ):(RR = 1.00% CI 0.83–1.21, P=1.00, I2 不明)

 

 

 

z-drug vs 非服用

全体(RR = 1.80, 95%CI 1.60–2.02, P = 0.001, I2 = 0%)

短期:(RR = 2.39, 95% CI 1.74–3.29, P<0.001, I2 = 26%)

全体(不眠患者のみ):(RR = 1.90, 95% CI 1.68–2.13, P<0.001, I2 = 26%)

 

 

BNZについてはn数の少なさからか、95%CIの幅が大きい文献が散見される。

逆に期間を問わない文献では2004年以降は1つを除き、95%CIが1を超えており、高齢者での服用に伴って、大腿骨頸部骨折の罹患も増えているのではないかと考えらえる。

 

BNZ、z-drugともに短期使用者の大腿骨頸部骨折の罹患リスクは他期間よりも高い結果が出ている。

 

 

【感想】

前回に書いたテーマとほぼ同じ、短期使用での転倒リスクが高いといった結果であり、初めて処方される患者には転倒リスクについても説明する、或いは自宅内での転倒歴についても確認する必要があると考えられる。また、75歳以上では特に、上記薬剤の使用の有無に関わらず、転倒に伴った大腿骨頸部骨折のリスクが増加するため、更に注意が必要かと思われる。PTとしては1日の活動範囲やフラツキについて評価を行い、転倒しやすい箇所に対して、手摺などの設置や障害物の撤去といった環境設定、ご本人・ご家族への動作指導を行う必要がある。その他、眠れない原因を評価し、極力は眠剤を使用せずとも生活が行えるようにアプローチを行っていくことも念頭に入れていければと思う。また、眠気に伴い、運動量の低下による廃用防止のために規則正しい生活リズムをつけていくことも指導していき、ADL低下を防ぐことも考慮していきたい。

8/26の居酒屋抄読会 in 京都のお知らせ

訪問して下さり、ありがとうございます。

 

8/26に、AHEADMAPでご活躍されている、薬剤師のずらとも先生(https://twitter.com/zuratomo4)が主催されている、居酒屋抄読会で薬剤師と理学療法士のコラボ企画を行っていく運びとなりました!ツイキャス配信も行いますので、医療関係者に限らず、奮ってご参加ください!

 

【ご案内】

場所:京都(四条河原町付近の居酒屋)

時間:21:00〜

メンバー:ずらとも先生、PTいっつん (出来ればあと京都でお二人参加して下さる方がいらっしゃると嬉しいです)

詳細はこちらをご参照ください。

twipla.jp

 

今回のコラボですが、「誰でも」「分かりやすい」「各人の意見を尊重」をモットーに進めて参りたいと思います。

色んな方からご意見頂けると幸いです!ぜひとも宜しくお願いします!

 

【お題】

患者プロフィール:Aさん 75歳男性、要介護1、転倒歴なし。ADLは屋内外ともに自立。趣味はカラオケと晩酌。外出はその他週3回程度。

奥様(73歳、要支援1)と同居。家事や家のことは殆ど奥様が1人で行っている。

住宅は2階建ての一戸建て。手摺などは特に設置していない。

 

あなたはある日、面識のあるA様宅に遊びに行くこととなりました。その際に同居している奥様からこんなお話を伺うこととなりました。

 

奥様「ねえ、実は最近、主人が最近が昼間も眠いみたいで歩く時にフラフラすることがあるよのよね…前はこんなこと無かったんだけど…」

 

あなた「心配ですね…夜はちゃんと眠れていらっしゃいますか?」

 

Aさん「つい2週間くらい前から寝つきが悪くて、病院にかかってから、マイスリーっていう薬を飲むようになったんだけどね、なんか昼間も眠いんだよね…。しかも、ちょっと足下もふらふらして、絨毯の段差にひっかかって転びそうになったんだ…。歳だし、体が弱くなったのかな…」

 

奥様「ねえ、この人(ご主人)がこの薬を飲んでても大丈夫なのかしら?ほら、最近は転んで大腿骨っていうの、脚の骨を折る人がいるって言うじゃない、入院とかしたら大変だし、なるべく元気に過ごして欲しいのよね…。転ばないようにするにはどうしたらいいのかしら…?」

 

と、そこであなたは持っていたタブレットを使って文献を調べ始め、まずは解決の糸口を探してみることとした…

 

使用した文献:

「Use of non-benzodiazepine sedative hypnotics and risk of falls in older men」

URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4289612/

PMID:25587493

 

【お題の論旨】

睡眠障害に対する薬以外のケアとは(もしくは他に聞いた方がいい情報などがあるか)

・フラツキに対してどういった対策を立てていくか

・転ばないよう、ご本人、ご家族ともに普段の生活で注意するべき点は何か

(など。これ以外にも色んな議論が展開が出来るといいなと思っております。)

 

皆様のご参加をお待ちしております!

 

非ベンゾジアゼピン系の服用は転倒リスクを増やすか?

今回のお題は

 

「非ベンゾジアゼピン系(z-drug)の服用は転倒リスクを増やすか?」

訪問して下さりありがとうございます。 

 

高齢者の中には眠剤を服用している方で、特に自分が老健に勤めていた際に日中のフラツキや傾眠から、立位や歩行バランスを崩して転倒するケースを経験したことがありました。今回はその転倒の予測のいち判断として、文献を読んでいきたいと思います。

 

「Use of non-benzodiazepine sedative hypnotics and risk of falls in older men」

URL:https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4289612/

PMID:25587493

前向きコホート研究

 

PECO

P:71歳以上の地域高齢男性(4450人)

E:z-drugを使用すると(94人)

C:ベンゾジアゼピンを使用した場合(177人)or睡眠剤を使用しない場合

O:転倒率は増加するのか

 

※1次アウトカムは明確か→明確

 

 

【方法】

 項目:転倒についてのアンケート(4ヶ月ごとにアンケートを送付、何回転倒したのかを1,2,3,4回もしくは5回以上で回答)

その他15項目(IADLの実行の可否、歩行速度、MMSE、GDSなど)を計測。

 

 

【結果】(ResultとConclusuionをまとめて)

 

z-drugのベースライン特性(年齢調整されたモデル) ()内は95%信頼区間

・転倒(RR1.44)、再転倒(RR1.51)

・GDSはz-drugと転倒リスクとの相関(RR1.30)あり

 

z-drug vs ベンゾジアゼピン

・多変量モデル(年齢、GDSスコア、BMIなど12種類)では、ベンゾジアゼピンは転倒、再転倒リスクと中等度の上昇と関連(転倒:RR1.37 再転倒:RR1.44)

※z-drugには年齢調整モデルにおける転倒歴については有意な相互作用があった(P=0.01)

・再転倒については有意でなかった(P=0.24)→潜在的な交絡因子によって有意差が弱められた影響あり

 

z-drug vs 睡眠剤非使用者

・年齢調整モデルではz-drug使用群は(転倒:RR1.40、再転倒:1.35)とリスク増加と関連

ベンゾジアゼピン使用者と転倒の経過との間に相互作用の根拠なし(非転倒者:P=0.41 転倒者P=0.70)

 

【まとめ】

ベンゾジアゼピン使用者は日常生活の障害の増大、身体機能の低下、うつ症状のレベル上昇に関連している

・65歳以上の患者のRCT、ゾルピデム使用者で有意に大腿骨頸部骨折が増加(REFERENCES 9参照)

・65歳以上の後向きコホート研究では、ゾルピデム処方後90日で非椎体骨折、転倒のリスクが高い(REFERENCES 10参照)

・鎮静催眠剤の追加のリスクは既に転倒している人は無視できるレベルだが、前に転倒しなかった人にとっては転倒するリスクが増加する場合がある。

 

【感想】

今回のケースでは恐らくコホート研究では避けられなかった交絡因子の存在によって、z-drugとベンゾジアゼピンの再転倒の有意差は見受けられなかったとなってしまったため、再検討する必要があると考えられる。

Conlusionにも記載があったが、ベンゾジアゼピン使用者は認知機能や身体機能の低下、うつ状態の悪化といった心身の状態悪化から転倒へ到るケースが多いが、z-drugについてはこの文献からは、睡眠障害を起因として転倒へ到るケースが多い印象があるとのこと。

 

認知機能の低下やうつ状態の悪化、身体機能の低下など、心身の状態変化においても転倒リスクを評価し、特に予後を予測し、時々に合わせた環境設定はもとより、日常生活場面での練習(予後を予測した杖歩行の練習など)を行ったり、ご家族ないしは施設であれば担当している職員に見守りしてもらうといった、マンパワーが必要な場合の指導を行っていく必要があると感じた。

 

そのため、主に睡眠障害のある方に対し、ご本人やご家族に対し日中や夜間の身体のふらつきや覚醒の状態を確認していく必要がある。転倒しないために、必要に応じて、環境設定(歩く際に手で掴まれるように動線上にテーブルや手摺を設置するなど)を施行していったり、転倒リスクのある絨毯や段差の撤去など、またはご本人やご家族に転倒しやすい箇所について注意を促したり、リハビリで転倒しないように訓練を行う必要がある。また、睡眠障害に対して、服薬以外での対策の検討も提案できれば転倒リスクは減るのではないかな…と。(医師や薬剤師、他職種との連携がカギとなってきそうな気はします)

 

ご意見などありましたら、twitterやコメントを頂けると幸いです。

引き続き、宜しくお願いします。